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気象観測用X-バンド二重偏波ドップラーレーダーの運用開始

2009年04月

山梨大学は、降水の観測を目的とした気象用X-バンド二重偏波ドップラーレーダーを甲府キャンパスに設置し、4月16日より運用を開始しました。これは、山梨大学グローバルCOEプログラム「アジア域での流域総合水管理研究教育の展開」(拠点リーダー 砂田憲吾教授(大学院医学工学総合研究部・工学学域))の研究教育の一環として行われるものです。これまで、甲府盆地には気象レーダーが設置されておらず、詳細な降水情報を得ることが困難でした。今回このレーダーの導入により、甲府盆地におけるより詳細な降水情報の取得が期待されます。

●気象用X-バンド二重偏波ドップラーレーダーの観測手法
 気象レーダーは、レーダーのアンテナから雨雲に向かって電波を送信し、雨雲中の雨粒に衝突します。そして衝突時に雨粒から散乱されてアンテナに戻ってくる電波を受信します。この電波の送信から受信までの時間と受信された電波の強度から、雨雲の位置とその雨の強さを知ることができます。アンテナを常に回転させて電波の送信と雨粒で散乱される電波の受信を行うことで、広範囲の降水情報を常時得ることができます。X-バンドは、波長が3.2cm の短い波長の電波の使用を意味しており、観測範囲は狭いですが、気象庁のレーダーよりも詳細な降水分布の観測が可能です。
 気象ドップラーレーダーは雨雲の位置とその強さのほかに、「ドップラー効果」を利用して雨雲中の雨粒の動きを観測することができます。「ドップラー効果」は、サイレンを鳴らして移動している救急車が、自分から近づいたり遠ざかったりする時、その音の聞こえ方が変化する現象です。動いている雨粒から反射される電波(動いている救急車から鳴らされるサイレン音)の周波数の変化(聞こえ方の変化)から雨粒(救急車)の動きを推定します。雨粒は空気の流れに乗って動くので、雨雲中の気流を推定することができます。雨雲の一つである積乱雲の発達に伴い発生するダウンバーストや竜巻など突風の検出に役立てられます。
 今回本学で導入しました二重偏波ドップラーレーダーは、1つのアンテナから2本の電波(水平偏波と鉛直偏波)を送信し、雨粒で散乱されるそれぞれの電波を受信します。これにより、降水の起源である雨粒についてより詳しい情報を得ることができます。雨粒は通常、横軸(長軸)方向に長いおまんじゅうのような形をして落下します。従来の気象レーダーは、水平偏波のみによる観測を行い、雨粒の横軸方向の情報のみを得て、降水の強さや量を推定していました。本レーダーは鉛直偏波による観測も同時に行い、雨粒の縦軸(短軸)方向の情報を得ることができますので、水平偏波の観測で得られた情報と併せて、雨雲中の雨粒の大きさや形状、それらの不揃い具合と言った情報を推定することができます。ある雨雲について、降水域がどのような雨粒により構成され、どのような降水がもたらされるかを知ることができます。この雨粒の情報を用いて、より精度の高い降水量の推定、そして降水の起源と雨粒の成長の解明が期待されます。

●水害をもたらす豪雨の実態解明
 近年各地で豪雨に端を発した水害が数多く報告されています。甲府盆地とその周囲の山岳域もその1つに挙げられます。甲府盆地周囲の山岳域では、多量の降水がもたらされ、土砂崩れや土石流などが起こっており、道路が封鎖されたりしています。さらに釜無川や富士川など山岳を源とする河川において、流量の増加をもたらし氾濫を引き起こすことがあります。一方、甲府盆地では近年局所で突発的に発生する豪雨(ゲリラ豪雨)が発生し、それに伴う急激な増水により都市型水害がしばしば引き起こされます。予測される豪雨に伴って発生する災害の評価や、それに対する防災や減災の計画を行うためには、豪雨の実態を調べることは必要不可欠です。また豪雨が、いつどこでどのような範囲で、かつどれくらいの時間をかけてどれくらいの量がもたらされるのかという、定量的かつ詳細な予測も必要とされます。そこで山梨大学では、最先端の二重偏波ドップラーレーダーを用いた降水の観測を行い、水害をもたらすような豪雨の構造や形成過程などの解析を行います。その結果を通して、降水量や降水の範囲などの定量的かつ高精度な評価方法の開発と、その予測可能性について検討します。

●突風現象の解明と検出
倒木や家屋の破損など風災害を引き起こすダウンバーストや竜巻と言った突風は、積乱雲の発達に伴い発生します。積乱雲の発達の激しさと寿命の短さから、突風はごく局所かつごく短時間に非常に激しい風をもたらすので、その検出や予測は非常に困難です。逆に言えば、積乱雲の場所と発達を追跡できれば、突風の元となる現象を捉えることができるかもしれません。そこで、二重偏波ドップラーレーダーによる高い時間分解能と空間分解能による観測から、突風を発生させる雨雲の構造と突風の形成過程を解析し、観測データを用いた突風の検出への応用を行います。

●X-バンド二重偏波ドップラーレーダーの防災・減災への活用
二重偏波ドップラーレーダー観測により得られた成果を用いて、土砂災害と水害に対する避難警報システムの開発への応用を検討します。そして、甲府盆地を対象とした土砂災害・水害対策モデルの開発を進めていきます。

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